横浜市内の自宅の近くにある大通りに、シマトネリコが街路樹として植栽されている。
シマトネリコは、沖縄や台湾原産のモクセイ科の小高木で、
近年、街路樹や庭木としてよく見かけるようになった。
常緑樹でありながら明るく爽やかな木で、その木陰は、暑い夏の陽射しの中のオアシスだ。
街路樹は、私たちに一番身近に季節の移ろいを感じさせてくれるものの一つだ。
春になればイチョウやケヤキの新緑に心を和ませ、サクラやハナミズキの花を愛で、
夏はその木陰に休み、秋には紅葉を楽しむ。
そのような街路樹たちにも長い歴史が有り、栄枯盛衰が有る。
日本の街路樹の歴史は奈良時代に始まり、平城京にタチバナとヤナギの並木が造られた。
戦国時代以降、全国に街道が整備され、マツ、スギ、ケヤキ並木ができ、
一里塚毎にエノキが植栽され、街路樹は人々の身近な存在となった。
現在、街路樹の全国植栽本数ベストファイブは、
イチョウ、サクラ、ケヤキ、ハナミズキ、トウカエデの順となっている(平成24年国交省調査)。
その25年前の昭和62年の調査では、イチョウ、サクラ、プラタナス、トウカエデ、ケヤキの順だった。
この25年の間に、プラタナス(モミジバスズカケノキなど)が圏外に去り、ハナミズキが登場した。
プラタナスは、外来種という洋風のイメージや、生長が早く刈込に強いなどの理由から
明治末期に登場して全国的にも広まったが、生長が早く大木になるために刈込頻度も高く、
維持管理コストがかかりすぎて衰退したと言われている。
街路樹は景観に潤いを与え人々に木陰を提供するだけでなく、
日本の狭い街路に合った“適材適地”の木でなくてはならないのだ。
街路樹の代表であったプラタナスの栄華の時代は終わった。
代わって登場したハナミズキは、大正初期にアメリカから寄贈された木で、
この20年ほどで多く見られるようになった人気街路樹。
都会的、花、紅葉、赤い実がきれい、などが人気の理由らしい。ハナミズキは大木にならない。
この“大木にならない”木は、日本の狭い街路には“適材”といえる。
冒頭に登場したシマトネリコも同じだ。
最近は、枝を大きく横に張らないケヤキの改良品種の街路樹も有るという。
私の自宅近くにあるサクラ並木の“ソメイヨシノ”の古木が伐採され、
カンヒザクラ系の栽培品種である“ヨウコウ”に植え替えられた。
小柄で、葉が出る前に濃いピンク色の花が咲く美しいサクラだ。
大柄なソメイヨシノよりも“適材”なのだろう。でも、少々寂しい感じもする。
これからの街路樹は、ハナミズキ、シマトネリコ、ヨウコウのような
“大木にならない”木が主役となっていくのだろうか。街路樹にも栄枯盛衰が有る。
(広川 一久)