美しい花は咲かないが、多様な針葉樹


私は鎌倉に住み、ハイキングコース、社寺林などを中心に保全活動を行っています。今年はじめて3月に花粉症になってしまいました。

植物は花粉を持っており、スギなど針葉樹以外の植物の方が多いのに、何故スギやヒノキに悩まされるのでしょうか。植物が地球上に現れた時代の違いにあります。4億4千万年前にコケ、シダ類が陸上に現れ、1億年後には木性シダ、スギ、マツなどの祖先が森林を形成するようになりました。この時代には花粉を媒介する昆虫等が居なかったので、当時の樹木は自分の花粉が遠くまで風に乗って運ばれるよう、ごく小さい花粉を大量に飛ばしました。今から1億7千万年前頃から多様な昆虫が出現しました。樹木もこれに合わせて蜜を出す花を咲かせて昆虫を引き付け、昆虫の体に着いた花粉を運んでもらうようになり、スギなどの針葉樹より後発の広葉樹や草花の方が繁栄し、現在に至っています。従って空を飛ぶ花粉の量は圧倒的にスギやヒノキなどの針葉樹になっているのです。 最近花粉量が少ない、更に花粉を出さないスギが出来るようになりましたが、国内のスギ、ヒノキなどの国産材は輸入材より値段が高くなるので、直ちに無花粉に置き換えるのは難しいようです。

杉林

広葉樹は太陽の光を求めて、枝を横に広げますが、針葉樹の多くはひたすら真っ直ぐに伸びるので、見上げると雄大な気持ちになります。特にスギは高さ30~40m、稀には50mにもなります。アメリカのカリフォルニア州にある世界最大の高さが100m以上、幹の直径が9~10mにもなる巨大な針葉樹のセコイヤ林を見た時には驚かされました。

赤い実が美味しいイチイ、種は食用に材は高級碁盤などになるカヤ、広葉樹に似た葉のナギ、生垣に使われるイヌマキ、海岸近くに多いクロマツ、丘陵地に生育するアカマツ、中国渡来のイチョウやビャクシン、世界的に造園木として有名なコウヤマキ、近年よく見かける北米産のセコイア類や沼地に生え気根を地上に出すヌマスギなど、鎌倉の社寺には多く植栽されています。

この時期鎌倉の森は落ち着いた緑で装います。鎌倉を代表するスダジイ、タブノキなどの広葉樹と合わせ針葉樹の端正で力強い樹形もぜひお楽しみください。

(本村 則之)


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