ミニ紀行 写真で巡る森と自然 その2 小笠原


小笠原諸島は本州から南に1000キロ離れた洋上の群島。週一便、東京・竹芝桟橋から片道25時間の「小笠原丸」による物資の運搬が島民の命綱になっている。交通の不便さ故に独特の生態系が保たれてきたこともあり、「東洋のガラパゴス」とも称される。昨年、世界自然遺産に登録された。

 

 この島々の魅力は何といっても海。深いコバルト色から浜に向かうにつれ明るいトルコブルーに変っていく。白い砂浜にはツノメガニや天然記念物であるムラサキオカヤドカリが歩きまわり、サンゴの海に潜れば色とりどりの魚たちが悠然と泳ぐ。だが、あまり美味しそうではない。

早春にはザトウクジラの群れが姿を現す。巨体を激しく海面に打ちつけるそのダイナミックな姿は一見の価値あり。アオウミガメの交尾(真昼間から!)も見逃せない。イルカたちには海が荒れてさえいなければ通年、ほぼ確実に出会うことができるだろう。人なつこいハシナガイルカの錐もみジャンプは愛らしい。

 

さて、もうひとつは森。ここは亜熱帯気候に属しているため、本土では目にすることのない植物がほとんど。初めて島に降り立って辺りを見まわした時、カルチャーショックならぬネイチャーショックを受けたことを思い出す。広い南の海のただ中という隔絶された条件が、他の地にはない独特の生態系を形づくるに至ったのである。とりわけ母島・石門は小笠原で最も原生的な森林が残る地域だ。ウドノキ、センダン、アカテツ、モクタチバナ、シマホルトノキなどの大木が鬱蒼と繁る林床にチクセツラン、タイヨウフウトウカズラといった希少草本類が生育する。10m余りにもなる木性シダ・マルハチも印象的。石門へと続く堺ヶ岳山腹から眺めた濃い森の緑と海の青とのコントラストには思わず息をのむ。ああ、これが小笠原!

タイヨウフウトウカズラ

 

しかし、そんな石門地域にも残念ながら外来植物は数多い。中でもアカギの侵略性は目に余る。この木は薪炭用に南西諸島から導入されたものだが、母島の各所で増殖し自生種を被圧している。樹皮を剥ぐ「巻き枯らし」や薬剤注入で駆除が行われているものの、広範囲にわたる作業なので多大な時間と労力がかかるだろう。アカギ以外にも生態系に悪影響を及ぼす外来生物は枚挙にいとまがない。昆虫を片端から捕食してしまうグリーンアノール(爬虫類)はよく知られるところ。

 

世界自然遺産となった小笠原だが、この問題に今後も取り組み続けなければ登録取り消しもあり得る。しかし、外来生物ももとを辿れば多くは人間の暮らしのために持ち込まれたもの。「人と自然との共生」と言葉では簡単にいえても、現実は一筋縄にはいかない。小笠原諸島は美しい自然・風景だけではなく、人と自然との関わりを考えさせられる場であるといえるだろう。(内野郁夫 H13年度会員)

その他写真

 

母島・堺ヶ岳山腹より

扇池

鮫池

 

 


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